研究内容

研究内容

“単分子接合”に着目して、独自の計測と解析手法により、ナノ材料開発に貢献することを目指します。

1. 単分子接合 ~究極サイズの界面構造~

一つの分子が電極に接続された構造体は、究極的な金属-分子-金属界面構造とみなすことができ、単分子接合と呼ばれています。電極-分子界面における電子輸送は、有機半導体や有機太陽電池等の開発において重要です。ナノ材料では体積当たりの界面の占める割合が大きいため、界面における電子輸送特性の解明は、特に重要な研究課題です。単分子接合の電子輸送特性を詳細に調べることで、金属–有機分子界面における界面構造と物性の関係を単分子レベルで明らかにすることができます。
また単分子接合は“ナノメートルサイズの二つの電極に分子が接続されている”という特別な構造を持っています。このため、単分子接合では量子力学的な性質や金属と分子間の相互作用等の影響により、孤立分子とは異なる新しい物性の発現が期待できます。したがって、単分子接合の研究を通して新たなナノ材料開発に役立つ知見を見出すことも可能です。

(参考)

伝熱, 63, 18-23 (2024).; 表面と真空, 66, 405-410 (2023).; 分光研究, 69, 53-60, (2020); 電気化学, 88, 217-222, (2020). など

2. 単分子接合の構造解析 ~分子と金属の繋がりを調べる~

単分子接合では分子の配向や吸着構造が金属–分子間相互作用に大きな影響を与えるため、単分子接合の物性解明には分子の接続構造の解明が欠かせません。しかし、1 nm程度のナノギャップ中に接続された分子の接続構造を決定することは、既存の装置ではほとんど不可能です。私たちは、ナノギャプで光が増強されるというナノサイズ特有の現象に着目し、表面増強ラマン散乱と電子輸送特性の融合計測により得られる信号を解析することで、分子の吸着構造を決定する手法を開発しました。ほかにも電流計測から得られる信号解析により、電極に吸着した分子の振動スペクトルを非破壊的に取得したり、電子状態を明らかにしたりする手法を開発しており、ナノサイズの界面に存在する分子の状態を単分子レベルで明らかにする手法の開発を行っています。

(参考)

東工大ニュース “分子が金属のどこにどのように吸着しているかの識別に成功―高性能分子デバイス実現に道拓く―”

ACS Appl. Nano Mater., 6, 8135-8140, (2023); ACS Appl. Mater. Interfaces 13, 51602–51607 (2021).; Appl. Phys. Lett., 117, 233104 (2020); Chem. Sci. 10, 6261-6269, (2019).; J. Am. Chem. Soc. 138, 1294-1300, (2016). など

3. 研究展開

単分子レベルでの高感度分子検出法の開発

私たちの手法では一つの分子が電極にどのように接続しているのかを調べることができるため、単分子レベルで分子を識別する高感度分子検出法へと応用できる可能性があります。このような高感度分子検出技術は液中の微物の検知や、味覚センサー、病理診断、創薬スクリーニング試験等への応用が期待されます。

新しい化学反応の探索

単分子接合中では分子は特異な電子状態をもちます。また、分子が接続されるナノギャップでは電場が増強されるアンテナ効果等、特異な現象が発現します。このように単分子接合中の分子は、通常の溶液中の分子とは異なる反応性を持つため、単分子接合の活用により強い電場による選択性の発現や反応に要するエネルギーの軽減が期待されます。

分子の機能性を活かした新しい素子の開発

今日、様々な機能を有する分子が合成されています。機能性分子の特性と単分子接合の性質を掛け合わせることで、更なる機能性の発現が期待されます。分子が持つ多数の自由度はAI素子などへと活用が考えられ、ロボットのインセンサー素子やエッジコンピューターへ応用が期待されます。

(参考)

東工大ニュース: 単一のπスタック二量体を識別する手法の開発

J. Am. Chem. Soc., 145, 15788-15795 (2023).; ACS Omega, 7, 5578–5583 (2022).; Small, 17, 2008109 (2021).など